ポケットに婚約指輪

ちょっと待ってて、と彼は一度会議室を出て、缶コーヒーを二つ持って入ってきた。


「はい」

「ありがとうございます」

「なんで外したの? 似合ってたのに」


言われたのは時計のことだとすぐに分かった。


「……誤解をされるといけないと思って」

「腕時計はつけてないと役に立たないよ? 気に入ったって言ってなかった?」


腕を這う指に、身じろぎして彼を見る。

余裕のある笑みを浮かべた彼は、指先の動きにいちいち反応する私にどんどん笑みを深くする。

どうしてそんな意地悪な目で見るの。

私の反応を見ていて楽しいの?
恥ずかしさと悔しさで顔が熱くなってくる。


「へ、変なことするならもう戻ります。お仕事は終わりですよね?」

「今の顔で戻れるの? 明らかに何かあったような顔だけど?」

「……っ」

「菫はそういうところが可愛いな」


立ち上がりかけた私を、彼が肩を抑えて座らせる。
顔に血が上ると同時に涙目になっていそうで、顔が上げられない。
追い打ちをかけるように彼の息が耳元にかかった。

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