ポケットに婚約指輪

「夜、空いてる?」

「空いてません」

「部屋に行っていい?」


私の話を聞いていないのだろうか。
それとも、私の拒絶はそんなに力が無いの?


「……ダメです。今日、江里子にお土産貰いました。舞波さん、ちゃんと江里子と仲良くやってるんじゃないですか。……奥さんを大事にしてあげてください」


妻の名前に、彼は一瞬手を止めて、私の肩から長机の上に戻した。


「ああ、あのお土産ね。ストラップのやつだろ? 江里子は君を見くびってるよね。俺はもっと可愛いのにしなよって言ったんだけど、こっちの方が合うって言い張ってさ」


江里子の話と違う。
どっちが正しいの、どっちを信じればいいの。


「……女同士って結構どろどろしてるんだな。江里子から聞く同期の子の話で、褒め言葉なんか聞いたことが無い。菫はそんなこと言わないだろ?」


そんなことはない。
自分から言葉にだして否定しないだけで、心の中には私だって色んな感情を持ってる。

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