ポケットに婚約指輪
「菫は優しくて、周囲の和を壊すようなことは言わない。そんなところが日本人ぽくて俺は好きだよ。本当は江里子より好きなんだ。だけどほら、分かるだろう? しばらくは出世の為に別れられない」
「勝手なこと……」
「菫なら内緒に出来るだろう? 今までだってそうだったんだから」
半年前の関係は、私だけの弱みじゃなかったはずなのに。
どうして私だけがこんな風に追い詰められるんだろう。
「私が言わないなんて、……どうして言い切れるの」
「それは俺が、君のことをよく知ってるからだよ」
目線の高さにある彼の口元が、上向きに弧を描く。
……そうね。
私はいつだってあなたの望むとおりにしていた。
自分でハッキリ意志を保てない私は、そんなふうに決められることで安心していたんだ、ずっと。
それが悪いことでも、あなたが決めてくれたからそれでいいんだと理由をつけて。
でも本当にこれでいいの?
小さく浮かんだ疑問も、彼の言葉に潰される。