ポケットに婚約指輪


「菫だって自分が大事だろう? 大丈夫。前みたいにしてれば絶対ばれない。数年我慢してくれればいいんだ」


数年。
呑気にそんなの待ってられる年なの? 私は。

それに待っていた所で、本当に舞波さんが離婚してくれるとも思えない。


「どうせ、菫だって一人は寂しいだろう?」


この言葉が、一番私の胸を突いた。

寂しい。
一人で負け惜しみみたいに自分を磨いた所で、何一つ満たされなかった。

誰かに愛されたい。大切にされたい。
心も、体も。


「でも」


頷きそうになる自分に待ったをかける。

結婚する前なら多分簡単に頷いていただろうけれど、今度は状況が違う。
今の舞波さんと関係をもったら、完全な不倫だ。
寂しさを埋めるためだけなら、別の恋愛であるべきだ。

舞波さんは私の頬をさすった後、すっと体を離す。


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