ポケットに婚約指輪

「なんで今更躊躇する?」


今更……?
舞波さんの感覚はそうなの?
確かに浮気という観点で見ればずっと一緒だけど、法律上の変化は大きいと思うのに。


「まあいいよ。俺が軽率だった。じゃあまたね」


予想外なほどアッサリと彼は書類をまとめ、会議室を出て行く。

取り残された私は、ひどく複雑な気分になる。

寂しい?
あっけない?

何だろう、この感覚。

拒絶したのは私の方なのに、どうしてこんなに寂しくなるの。


「……私も、行かなくちゃ」


立ち上がろうとして、力が入らない。

言い寄られるのは、気分が良かった?

そうかもしれない。
どんな形であれ必要とされるのは嬉しい。
例え不倫の誘いであろうとも、それが好意を抱いている人からなら。

違う恋愛を始めようって思ったって。
刈谷先輩にあんな風に脅されたら、もう里中さんへの気持ちを育てることも出来ない。

私にはもう、なんにも残ってない。

両手を交差するようにして自分の体を抱きしめる。

自分がどうすればいいのか、もう分からなかった。
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