ポケットに婚約指輪
その指先には、イタイ女の象徴でもあるペリドットの指輪があった。
その彼の顔を見て、私はハッと息を飲む。
会社の人だ。
部署は違う。営業部の人。
だけど私は一方的によく知っている人だ。
名前は里中司(さとなか つかさ)さん。
私のいる人事総務部の刈谷(かりや)先輩が、猛禽類の眼差しで狙ってる男の人。
でも里中さんの方は私に見覚えが無いらしい。
無理もないか。
営業一課への人事部からの連絡はすべて刈谷先輩が取り仕切っている。
だけど、彼が黒の礼服を着ているところを見れば、多分同じ会場内にいたのだろうけど。
「あ、……すいません」
落としたんじゃなくて捨てたんだけど。
そういう思いもあったけど、ここで事を荒立てたくはない。
受け取ってすぐ離れようと思った。