ポケットに婚約指輪
ドタキャンの顛末
【19時には仕事終われるので、ロビーで待ち合わせにしよう】
里中さんからきたメールを確認したのは、定時間際。
私はもう帰り支度に入っているタイミングだった。
「刈谷先輩、19時にロビーだそうです」
「そう、わかったわ」
刈谷先輩は、そういうと書類を出し始めた。
急ぎの仕事ではないだろうけど残業して待つつもりだろうか。
「体調が悪いって事にしとくわね? お腹痛いでいい?」
「……はい。里中さんには、メールしますから」
「そうね。もう少ししてから出してよ。30分過ぎた辺りで」
そんな間際にするなんて失礼だ。
そう思うけど、ちらちら舞波さんに視線を送る刈谷先輩を見てると、もう逆らう気力がなくなってくる。
「見つからないように、先に帰ります」
荷物をまとめて、早々に会社を出る。
そろそろ秋風が吹き始めているのか、日が陰り出すと空気が冷たい。
むき出しの腕を軽くさすってから、メールの文章を打ち込み始める。