ポケットに婚約指輪


【急な体調不良で帰ります。お金は刈谷先輩に渡しておいたので二人で楽しんできてください】


一応違和感はないかな。

里中さんは勘が良いから、もしかしたら嘘を見抜くかも知れないけど。
……その時はきっと嫌われるんだろう。


「あ、いけない」

いつもの勢いで、送信ボタンを押してしまった。
慌てて時間を確認すると18時10分。
まだ早かったかな。

でも送ってしまったものは仕方がない。
急いで電車に乗ろう。

私は駆け足で駅に向かった。

その途中でメール着信メロディが鳴る。
立ち止まって確認すると、里中さんからの返答がきていた。


【大丈夫? 食事は別な日にしよう】


どうしよう。
それじゃあダメだ。刈谷先輩が納得しない。

道行く人が私を邪魔そうに押しのけて行く。
仕方なく道路脇によって、返信文を考える。


【私のせいで変更とか申し訳ないです。刈谷先輩も楽しみにしているので、二人で行ってきてください】


これで、どうだろう。
わざとらしくない?

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