ポケットに婚約指輪
「……ど、して」
「大体想像つくでしょ。こんな怪しいドタキャン。すぐ追いかければ駅までに捕まえられるかと思って急いできた」
「でも」
「俺は断るよ。刈谷さんと二人きりで出かけたくない」
「でも」
そうしたらバラされる。
きっと里中さんに嫌われる。
私は必死になって彼に頭を下げた。
「お願いします。今日だけ。もう二度とこんな風に騙したりしないから」
彼は私をマジマジと見ると、溜息を一つついた。
「なんでそんなに必死?」
「それは……」
「俺に刈谷さんと付き合って欲しいの?」
おでこがくっつくのではないかと思うほどの距離で、彼が私を覗きこむ。
かあっと頭に血が上った気がして、思いっきり目をそらした。
「や、違います」
「そうだよね。俺も頼まれてもそれはちょっと困る」
「だけど……」
言えない。
あなたに知られたくないです。
あんな風に泣いて忘れようとした不実の恋を、まだくすぶらせているなんて。