ポケットに婚約指輪
「お願いしてくれるんなら、行ってもいいよ。ただ、今後の誘いは断るの前提でだけどね」
「……え」
「困ってんでしょ? 君は顔に出るからすぐ分かる。同じ部署だからやりにくいのはわかるけど、ある程度ははっきり言わないと、この先ずっと刈谷さんの言いなりになるよ?」
それはもうなってる。
今更、どうやったら戻せるのかも分からない。
「……私どうしたらいいんでしょう」
「さあ。俺はそっちの仕事の方は分からないからなんともいえないけど。別に刈谷さんは人事権を持ってるわけじゃないんだし、そこまでビクビクすること無いんじゃない?」
「でも」
「強くなれば?」
さらりと言われたその一言は、簡単なようで難しい。
強くなりたいけど、どうすれば強くなれるって言うの。
俯いて黙ってしまった私に、頭上から降ってくるのはため息だ。
「とりあえず今日はお願いしてくれない?」
「何をですか?」
「刈谷さんのこと、なんとかしてって」
「私が、……ですか?」
「だって困ってんのは君でしょ?」
確かに……そうかな。
なんか里中さんと話してると、意外な方向に会話が持っていかれるような気がする。