ポケットに婚約指輪

「でもこれで最後ね」

「え?」

「恋愛をもう一度始めるなら、君のようなタイプがいいんだよね、俺」

「は?」


思わず、口をあけたまま呆けてしまった。

何言ってるの、里中さん。
彼はにやりと笑うと、私の頭をくしゃくしゃと触る。


「この貸しは大きいからね」

「あのっ」


里中さんは背を向けて、小走りに戻っていく。

どうしよう、ドキドキしてる。
その背中を見てるだけで、泣きたくなるような気持ち。

気持ちって、育てるとか育てないとか、呑気に考えても仕方ないものなのかもしれない。

駄目だと心に決めたところで、たった数分の会話で、あっという間に里中さんに惹きつけられていく。

多分恋にはもう落ちてる。


気持ちはきっともうずっと先を進んでいるのに、私はスタート地点に立つ決意さえ固められずにいる。


刈谷先輩が怖いから。

そして、

舞波さんを断ち切る勇気が持てないから。


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