ポケットに婚約指輪
なのに伸ばした手は彼の指先とぶつかって、指輪は宙に投げ出された。
緩やかな軌跡を描いて落ちたそれは、最後、ぽちゃんと可愛い音をたてた。
「え?」
「あ」
私と彼はお互いに顔を見合わせる。
「す、すいません。俺がしっかり持ってないから」
「いえ、違います。私がぶつかったんですから」
お互いに頭を下げた後、川面に目をやる。
真っ暗で何も見えない。
もし見えてたとしても、ここから一つの指輪を探すのは至難の業だ。
「……すいません」
里中さんが、気まずそうに私を見る。
なんだか申し訳ないくらい。
だって彼は拾ってくれただけで、何も悪いことしてないのに。
「あの、気にしないでください。実はあれ、本当は捨てるはずのものだったんです」
「いや、そんな」
「本当です。別れた彼に見せつけてやるためだけに買った負け犬ジュエリーなんです。そんなに高くないし、気にしないでください」
彼に罪の意識を負わせるのはあまりに可哀想で、私は本当の事を口にした。
本当だったらこんなこと、誰にも言いたくないことだったんだけど。