ポケットに婚約指輪


「私、舞波さんより好きな人が出来ました」

「はぁ?」

「だからやっぱり、もうあなたとはこんなことしたくない」


舞波さんは眉を寄せると、ずんずん近づいてきて、私の腕を強く引っ張った。
反動で携帯が転がり、私はベッドに叩きつけられる。


「ざけんなよ。だったらなんで部屋に入れた。なんで、黙って脱がされてた」

「それはっ」

「こんな状態になってからやめられっかよ」

「やめて!」


のしかかる舞波さんが、私の中に入ろうとする。

先ほどまでの溢れる蜜はもう消えていて、引きつるような痛みが私を襲う。

それは多分相手も同じで。
何度か繰り返そうとした彼は、やがて舌打ちをして私から離れた。


「……しらけた」

「舞波さん」

「物欲しそうな顔してた癖に。あれだろ。結局その好きな男ってのも脈が無いから、俺で我慢しようとしたわけ?」


せせら笑いながら、彼は私に服を投げつける。そして自分も脱いだ服を着込みながら、冷たい視線を私に浴びせた。


「俺以外の誰が菫に惚れる? 目立たなくて気の利いた会話一つ出来ない菫を」

「……っ」


怒っているからか舞波さんの言葉には容赦が無い。

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