ポケットに婚約指輪
私が小さく頷くと、彼は鼻をフンと鳴らした。
「もし俺を崖から突き落としたら、俺は何倍も高いところから君を落とすから」
凄みの聞いた声に、ぞっとした。
コクコクと何度かうなずいたのを確認して、ようやく彼は表情を緩める。
「じゃあ、時計も返してもらおうか。いらないんだろ? 俺からのプレゼントなんて」
私は黙ったまま、散らばっている荷物の中から時計を拾い上げる。
「……はい。これ、です」
「全く。余計な買い物だったよ」
来た時の服装になった舞波さんは、私の手から時計を取りあげてポケットにしまった。
そして、さよならの一言さえ言わずに、私の部屋を出て行った。