ポケットに婚約指輪
里中さんは私をじっと見詰めた後、「じゃあ」と鞄の中を探った。
「これ、あげます。俺が持ってても仕方ないものだし。きっかけがあれば手放したかったものだから」
「え?」
彼が差し出したのは指輪のケースだ。
「え? でも」
戸惑う私をよそに、彼は私の手にそれを押し付けると、手を振って歩いて行ってしまう。
「あのでも、これ」
「いいから。失くした指輪の代わりにしてください」
大きな声で叫ぶと、大きな声で返事がきた。
追いかけようにも足は痛いし。
私は諦めて彼を見送って、その姿が見えなくなった頃、手の中のケースを開けた。
「……嘘」
そこに入っていたのは、上質な光沢をもつプラチナのリング。
真中にダイヤモンドが飾られている。
これは、四万七千円どころじゃない。
本物の輝きがここにある。