ポケットに婚約指輪
「ああ、結構近いんだな。15分もあればいけそうだ」
「住所だけで分かるんですか?」
「タブレットで地図開いてるから」
さすが営業とでも言うべきか。
最新端末もしっかり使いこなしているのだろう。
「あの。……私とで本当にいいんですか?」
不安からの問いかけに、彼の返答は甘く耳に響く。
「君がいいんだよ」
体中が熱くなって、それ以上何もいえなくなった。
そして同時に、怖くもなる。
里中さんに、今日のことを知られたらどう思われるんだろう。
強引に押されたとはいえ、既婚者の舞波さんとあと少しで最後までいってしまうところだった。
そんな私を知られるのは嫌だ。
黙ってしまった私に、彼は誤魔化すように笑う。
「冗談だよ。おやすみ」
「……おやすみなさい」
彼の言葉もどこか曖昧で、素直に受け止めていいのかも迷う。
私のこと好き?
それは自惚れ?
彼がくれる何もかもが嬉しいのに、素直になれない。