ポケットに婚約指輪
格好いいな、と思う。
シャツの袖から出た程よく筋肉のついた腕が時折、私たちの間に位置するエアコンの操作パネルに伸びて、その度にドキドキしてしまう。
時々、ラジオの話題を拾って私を笑わせてくれて、窓の外の景色に誘導してくれたりもする。
話題が豊富な人といるのはこんなに楽しかったんだ。
一人でいると自分に落ち込んでばかりなのに、今日はなんだか心が軽かった。
「さあ、着いた」
車を止めた彼は、すぐに運転席を降りると助手席側に回ってドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「え? あ、ありがとうございます」
どこぞのお嬢様みたいな扱いをされて、どんな風に答えればいいか分からない。
「君は少し自信を持ったほうがいい」
「え?」
「強くなるにはまず自信を持たなきゃ」
じっと彼を見ていると、彼は緩く笑った後背中を向けて歩き出した。
少し突き放された感覚にたじろぐけど、遅れないようについていった。
さっきの言葉が、ものすごく胸を突いたから。