ポケットに婚約指輪

里中さんは、顔の位置を元に戻すと何てこと無いようにさらりと言った。


「ああ。そうだね。じゃあ刈谷さんには内緒にしよう。連絡はメールでするから」

「はい」

「じゃあまたね」


あまりにもあっさりと彼は再び車に乗り込んだ。

今日のデートで親密さを増したと思っていただけに拍子抜けする。

はっきり付き合おうとか好きだとか言われたわけじゃないけど、次の約束をしたことで私はこんなに浮き足立っているのに。


「あの、気をつけて」


私の叫びに、彼は車の窓からひらひらと手を振った。
その車が見えなくなるまで見送って、私は手一杯の荷物を持って部屋に入った。


服、化粧、髪飾り。

一つ一つは些細なものでも、それが重なれば十分な大きさを持つ。

それらをちりばめて、私に自信を持たせてくれた彼。

そこまでしてくれるのは好意があるからだと勝手に期待していたのだけど、勘違いなのかも知れない。

帰りがけの彼の態度を見ているのそんな気もしてくる。


彼が買ってくれた服を丁寧にたたんで部屋着に着替え、ベッドにダイビングする。

里中さんが好きだと思う。
次の一歩を踏み出したい。


それは許される?


問いかけてしまうのは、私がまだ弱さを捨て切れていないからだろうか。






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