ポケットに婚約指輪


「……里中くん好きな子がいるみたい。誤解されたくないんだって」

「そうなんですか」


なんだか汗が滲んでくる。
話せば話すほどボロがでそうで、話題を変えたかった。


「婚約者と別れてから女の気配なんて無かったはずなのに。私ずっと見てるのに、頑張ってるのになぁ。……どうして私じゃ駄目なのかしら」

「……さあ」


それは、逆に頑張りすぎだったからのような気がするけれども。
刈谷先輩はちらりと私を見た。


「菫知ってる? 里中くんの好きな人」

「……知りません」

「菫じゃないよね。菫は私の気持ち知ってるもんね」


重ねて言う言葉は、もし私なのだとしたら断れていうこと?


「菫はあの“彼”と付き合ってるんだもんね?」


すがるような目でそう言われて、頷きそうになる自分を必死で止める。

違う。
せめて違うことは伝えないと。

もう舞波さんとは関わらないって決めたんだから。


「違います」

「え?」

「刈谷先輩の勘違いなんです。彼とはもう」

「今更しらばっくれないでよ。二人きりであんなことしてたくせに」

「あれはっ……」

「いい子ぶるの。菫の悪い癖よ?」


そこまで言うと、満足したように刈谷先輩は私の肩を叩いて先を歩き出した。

彼女の颯爽とした後姿を見ながら、何故か気分が落ち込んでいく。
せっかく変わろうと思ったのに、自然と心が沈んでいってしまう。


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