ポケットに婚約指輪


 里中さんとの関係はあれから変わっていない。

土日のどちらかを使ってドライブに行ったり食事をしたりはするけれど、お互いに『好き』とか『付き合って』とか具体的な言葉を口にすることは無かった。

だから、未だにリハビリの為に一緒にいる……ということになるのだろうか。


それでも、彼との逢瀬は私に一週間を頑張れるだけの元気をくれる。
言葉に出してその関係が壊れてしまうくらいなら、このままでいいという気にもなっていた。


 彼が言ったとおり、毎日一つだけ、明るい色のものを服装に取り入れる。

不思議なものでそうすることで気分は上向きになり、仕事中も元気な声が出るようになった。


「塚本さん、この仕事手伝ってくれない?」


同じ部署の人から、そんな風に言われることも増えてきた。

以前ならば、私には誰にでも出来るような単純作業が回されることが多かったのに、今は人と話すような仕事に同行させてもらえることが増えてきた。

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