ポケットに婚約指輪

会社での私

 そのまま歩いて駅に着き、電車に乗り込む。

日曜の夜の九時台だからか割とすいていて、私はすぐに座ることができた。

小さな揺れを体に感じつつ、意識は指輪のケースにばかり言ってしまう。
人から見られないようにカバンの陰に隠しながらケースをこっそり開いた。

ダイヤモンドは周囲の光を受けて反射し、こっそり見ていても誰かに気づかれそうなほどきらやびかだ。

これをもらうわけにはいかない、と改めて決意する。

同じ社内の人間だとバレるのは嫌だけれど仕方ない。
明日営業一課に行って返そう。


「でも、ホント綺麗」


ダイヤモンドの輝きに吸い込まれそう。

こんな指輪をプロポーズされて贈られたらどれだけ幸せなものなんだろう。


明日返すなら、つけてみるのは今日しかない。
いけないと思いつつ興味が湧いた私は、それを左手の薬指にはめてみた。


「……ぴったり」


ダイエットをして指も少し痩せた。
九号サイズだった指輪は、今は七号サイズでぴったりになった。

あまり一般的ではないそのサイズが、ぴたりと合うなんて不思議だ。

つけただけで自分が高級な女になった気がする。
自信も幸福も運んでくれそうな指輪。


「とっても、綺麗」


偽物じゃない輝き。
彼がそれを実現しようとしてた人はどんな人だったんだろう。
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