ポケットに婚約指輪


「じゃあ、午後時間ある? 採用関係の今までの流れを教えようか」

「はい。よろしくお願いします」

「会議室は俺がとっておくよ」


ポンと肩を叩いて舞波さんはデスクに戻っていく。


ほら。大丈夫だ。
もう舞波さんだって私のことなんか興味も無いはずだ。

安心してデスクに戻ると、刈谷先輩から肩を叩かれる。


「良かったわね、菫」


言ってる言葉の割には顔が笑っていない事が怖い。


「ええ、お仕事のチャンスです」

「馬鹿ね、そっちじゃないわよ」

「そっち以外って?」

「またしらばっくれる」


フンと軽く鼻を鳴らして刈谷先輩はディスプレイに向き直った。

刈谷先輩は、未だに舞波さんと私のことを疑っているようだ。

あの後も何度か否定したのに。
思い込んだら一直線なところがあって本当に困る。



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