ポケットに婚約指輪
「それでももう、舞波さんとはお付き合いしません」
「……自信ついたんだな、菫。もう人形にはなってくれないか」
苦笑しながらも、今日の舞波さんはどこか優しいような感じがした。
私が変わったように、彼も変わる何かがあったのだろうか。
「……江里子と話してると、たまに俺の価値って何なのかなって思う。仕事を頑張ったってあいつの父親のお陰とか言われるし。お姫様みたいに扱わないとすぐいじけるし」
「でも江里子は舞波さんのことが好きですよ? だからこそ疑うんじゃないですか?」
「そうかな。『この私が浮気されるなんて』って事じゃないの? プライド高いから」
「それは……」
無いとはいえないけど。
だけど、確かに愛情はあるのだと思う。
新婚旅行のお土産をくれたあの日、私に見せつけた優越と幸福。
そこまでして、江里子は舞波さんが自分のものだとアピールしたかったんだ、私に。
「……舞波さんは江里子とどうして付き合い始めたんですか?」
「え?」
今まで聞いたことが無かったことだ。
舞波さんを好きだと思っているうちは聞けなかった。彼の彼女への気持ちを知ることが怖くて。
こんな質問を投げかけられるくらい、私は舞波さんのことを吹っ切れたんだ。