ポケットに婚約指輪

「どうして……って。最初は会社の飲み会だよ。俺、部長に気に入られてるからさ。結構上役との飲み会に連れてってもらえるんだ。江里子の方も入社仕立ての頃は親父さん……ああ、つまり専務に連れられてくることが多くて。そこでかな」


じゃあ最初から上役の娘だということは分かっていての付き合いだったんだ。
舞波さんは少しばつの悪そうな顔をして頭を掻き揚げた。


「もちろん野心もあった。専務の娘と付き合えば得だという考えは頭のどこかに必ずあった。でも、江里子が気に入ったことも本当だよ。美人だし、物怖じせずハキハキしているし。思い通りにならないとキレるけど、謝ってくる時なんかは可愛い」

「好きなんですよね」

「好きだ。でも浮気はした。ずっとでは疲れるだよ。……菫がいたから、付き合ってたときはもってたんだ」

「そういうはけ口にされた女の気持ちは?」

「考えてない。考えたらやれないだろう。そんなこと」


さらりと言い放つ彼に、今日は苛立ちよりも悔しさよりも哀れみみたいなものを感じた。

本当の意味で、舞波さんには恋愛なんて出来ないのかもしれない。


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