ポケットに婚約指輪


「……江里子を大切にしてあげてください」

「それ、菫が言うんだ」


舞波さんは馬鹿にしたようなゆがんだ笑いを浮かべた。それを見ても、今日の私はひるんだりしなかった。


「はい。今更だけど。あなたと付き合ったことを後悔してます。これから江里子を応援することで償いたいです」

「綺麗ごとじゃない?」

「それでもいいんです」


ずっともやもやしていた。
舞波さんと付き合っていたとき、心の中にはいつも優越感と同時に罪悪感が同時にあって。
振られてからは自虐的なことしか考えられず、周りを憎んだり羨んでみたりすることでしか自分を支えられなかった。

でも今は、
なんだかすっきりしている。

綺麗ごとでもいいの。
自分の中をまっすぐにしたい。

嫌だった自分の過去は消えてなくなるわけじゃないけれど、これから正しく生きることで少しだけでも綺麗になっていくかもしれない。


正しさは私を幸せにしないと思っていた。
正しく生きたって損をするばかりだって。

確かに損はする。
嫌なことを押し付けられたり、間違った考えに押しつぶされることもある。

それでも過ちよりは気分がいい。
今凄くそんな気持ちになってる。

それを“彼”に告げたら、何て言葉を返してくれるのだろう。


< 178 / 258 >

この作品をシェア

pagetop