ポケットに婚約指輪

「そうだな。たまに海とか見に行くのもいいか。新島海岸の近くにオルゴール博物館があるんだ。綺麗だって聞いたことあるけどまだいったことが無いんだよね。行く?」

「行きます!」


週末の予定を決めて電話を切る。
早速、着ていく服を選び出す私はなんだか思春期の女の子みたいだ。


「好き、なんだ。私」


自分の浮かれ具合に否が応でも実感する。

里中さんが好きだ。
今はもう誰より。舞波さんよりずっと。

里中さんはどうだろう。
こんな風に誘ってくれるんだから、少しは好意はあるよね?

伝えたい、彼に。
自分の気持ち。あなたのことが好きですって。


決めた服をあてて鏡を見ると嬉しそうな自分の顔が映る。

それと同時に刈谷先輩が頭に浮かんできて、鏡の中の自分の表情が翳っていくのが見えた。


「……駄目だ」


やっぱり言えない。
もし里中さんとうまくいったとしたら今度は刈谷先輩が黙ってない。

あのことをばらされたら、会社での私と舞波さんの立場も、里中さんとの関係もみんな駄目になってしまう。


「馬鹿ね、私。……夢見ちゃった」


だけど、じゃあ私のこの気持ちはどうしたらいいんだろう。

いつの間にかこんなにも大きくなって、捨てることも隠すことも出来ないくらいなのに。


「……どうしたらいいんだろ」


その呟きに、答えを見つけることは出来なかった。


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