ポケットに婚約指輪


 土曜日、里中さんはいつものように車で迎えに来てくれた。

海辺は風が強いだろうと、今日はジーンズにしてみた。トップスはいつもよりもフリルの多いものでジーンズのシンプルさを補わせる。髪もいつも下ろしてばかりだけど結い上げてみた。


「お、なんかイメージ違うね」

「どうですか?」

「可愛い可愛い。いい感じ」


素直に褒めてもらるのがとても嬉しくて、少し不安にもなる。

オトナになるとただ信じているだけではいられない。
幸せなことにも終わりはあると、もう知ってしまっているから。


「じゃあ乗って」

「はい」


里中さんとのお出かけはいつも楽しい。

ドライブが好きというのは本当なのだろう。彼は遠出することを嫌がらない。

やがて車は海水浴場の駐車場で止まる。もう海水浴シーズンは過ぎているので、車はまばらだ。


「……里中さんっていろんな場所知ってるんですね」

「うん、まあね」

「あ、日焼け止め塗らなきゃ」


スプレー式の日焼け止めを取り出すと彼はくすりと笑う。


「女ってホント不思議なとこ気にするよね」

「だって。焼けたら取り返しつかないですもん」
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