ポケットに婚約指輪
『女って』
里中さんはよく言うけど、その言葉に含まれる人は誰なんだろう。
元婚約者さん? 元カノさん?
里中さんはモテそうだし、歴代彼女も一杯いたに違いない。
「ほら、行こう。風が気持ちいい」
「はい」
一歩先を歩く彼の後ろについて、白く浮かび上がる波の動きを見る。
一時も同じ形を維持しないのがなんだか面白い。
彼が堤防のところに座ったので、その隣に人一人分くらいの距離を開けて座る。
「痛くない、お尻」
「ジーンズなので大丈夫です」
「ならいいけど。塚本さんなんか最近いいね」
「え?」
「笑うようになった」
「それは、……里中さんのお陰です」
心からの本心でそう言った。だけど言葉にしてみたらとても恥ずかしくなって、赤くなったであろう頬を隠すように膝を抱える。ジーンズにしてよかったと本気で思った。
「俺?」
「里中さんがいなかったら、私ずっと前の人を忘れられずにグズグズしてたと思うし」
「へぇ」
彼の声が頭上からした。
顔をあげると、彼の髪が掛かりそうなほど近くにまで距離が縮まっている。