ポケットに婚約指輪
「そう言うってことは、前の彼のことは忘れたの?」
「……そうですね、多分」
「多分……ね。まだ曖昧だなぁ。ちゃんと終わりにしたほうがいいよ。不倫は俺はお勧めしない」
「……ですよね」
「人を不幸にするだけだし。その人の家族も崩壊する」
そう言った彼の表情は厳しくて。何か不倫について嫌な思い出でもあったのかと疑うほど。
彼の過去を私は良く知らない。
とても好きだった婚約者が居たのに、うまくいかなかったということだけ。
あなたこそ、もう吹っ切れたんですか?
誘ってくれることに、私は期待してもいいの?
「……里中さんは、どうして私を誘ってくれるんですか?」
「ん?」
彼の真意を知りたい。
刈谷さんのことを恐れているくせに、そんな気持ちも捨てられなかった。
「塚本さんは、どうして俺の誘いにのるの?」
予想外の切り返しだ。
質問に質問で返すの?
「それは、誘ってくれるから」
「じゃあ、俺が誘わなきゃもう会わないの?」
「それは……」
おかしい。いつの間にか私のほうが追い込まれている。