ポケットに婚約指輪
「会いたい……です」
「うん」
満足そうに彼が笑って。私はなぜか泣きたくなる。
「……でも怖いんです。まるで魔法にでもかけられてるみたいで」
「魔法?」
「いつか突然魔法が解けて何もかも無くなったらどうしようって」
魔法を解くための呪文は、刈谷先輩が知ってる。
舞波さんとのあのキスをバラされたら、きっと嫌われるに違いない。
「魔法を解けなくするにはどうすればいい?」
「そんな方法ないです。私は知らない」
「俺は知ってる。かけ続ければいいんだよ。ちゃんと本心を口にしつづければいい」
「本心を?」
里中さんの手が、頬に伸びて私の顔を持ち上げる。
目を合わせるように上を向かされて、恥ずかしさから視線だけを外した。
「言ってみれば?」
軽い調子で彼が言う。
でも私の本心って。言ったら色んなことがおかしくなっていってしまうのに。
私は何て言ったらいいの?