ポケットに婚約指輪
目撃
どのくらいそうしていただろうか。
「そろそろ行こうか。オルゴール館も見たくない?」
先に里中さんが立ち上がって、私の手を引っ張ってくれた。
「見たいです」
「その敬語止めようか。付き合うんなら」
「え? でも」
「俺の事は名前で呼んで。あ、名前知ってる?」
「知ってます。つ、司さん、ですよね」
「呼び捨てでもいいけど」
「やっ、それは難易度が高いです」
顔が赤くなってるのを隠そうと、顔の前で手を振ると右手を掴まれる。
「俺は菫って呼ぶけどいい?」
「……いい、です」
そのまま、右手を引っ張られて歩き出す。
私たち、手を繋いでる。
隣を歩く里中さんとはほんの少ししか距離がなくて、動くたびに肩に頭が触れそうになる。
さっきよりも近い。
これは知り合いの距離じゃない。
こんなとこを誰かが見たら、私たちを恋人同士だと思うだろう。
「あの、刈谷先輩には内緒に……」
「なんで? 付き合うんでしょ、俺たち。もう言っちゃおうよ」
「駄目です。お願い」
「うーん。でも、勝手にばれると思うよ。だって俺は別に隠す気ないし?」
「お願い、会社では駄目です」