ポケットに婚約指輪
お願いに弱いって言ってたから、両手を合わせて必死に懇願する。すると彼は頭をくしゃりとかいて笑った。
「仕方ないなぁ」
そのまま、その手は肩に移った。
「じゃあ見に行こう」
「はい」
肩を抱かれてオルゴール館まで向かう。
心臓がドキドキして、彼の話が余り頭に入ってこなかった。
夕食をとった後、彼は私のアパートまで車で送ってくれた。
「ありがとうございます。あの、お茶でも飲んでいきますか?」
「いや? 今日は帰るよ。またメールする」
「……そうですか」
一応付き合うってことになったのに、彼の態度はそれほど変わりない。
多少のスキンシップが増えただけで、おでこのキスが一番の進展だ。
小さくなる車を見送って、ため息が一つ零れ出た。
もっと早く距離を縮めたい。
そう思ってる自分が居るのは否が応でも認めざるを得ない。
自分のわがままさに笑ってしまう。
ばれるのは怖いのに、彼のことは欲しいだなんて。
「ばれたら、……嫌われる?」
だけど。
いつか必ずばれるなら、私は自分から彼に伝えてしまうべきなのかもしれない。
上手に嘘をつく自信なんて私には無いんだから。
「覚悟を、決めなきゃなぁ」
言葉に出してみても、心は定まらない。
少しは強くなったって思ってみても、やっぱりまだ弱い私がここに居る。