ポケットに婚約指輪

お願いに弱いって言ってたから、両手を合わせて必死に懇願する。すると彼は頭をくしゃりとかいて笑った。


「仕方ないなぁ」


そのまま、その手は肩に移った。

「じゃあ見に行こう」

「はい」

肩を抱かれてオルゴール館まで向かう。
心臓がドキドキして、彼の話が余り頭に入ってこなかった。



 夕食をとった後、彼は私のアパートまで車で送ってくれた。


「ありがとうございます。あの、お茶でも飲んでいきますか?」

「いや? 今日は帰るよ。またメールする」

「……そうですか」


一応付き合うってことになったのに、彼の態度はそれほど変わりない。
多少のスキンシップが増えただけで、おでこのキスが一番の進展だ。


小さくなる車を見送って、ため息が一つ零れ出た。

もっと早く距離を縮めたい。
そう思ってる自分が居るのは否が応でも認めざるを得ない。


自分のわがままさに笑ってしまう。
ばれるのは怖いのに、彼のことは欲しいだなんて。


「ばれたら、……嫌われる?」


だけど。
いつか必ずばれるなら、私は自分から彼に伝えてしまうべきなのかもしれない。

上手に嘘をつく自信なんて私には無いんだから。


「覚悟を、決めなきゃなぁ」


言葉に出してみても、心は定まらない。
少しは強くなったって思ってみても、やっぱりまだ弱い私がここに居る。

< 188 / 258 >

この作品をシェア

pagetop