ポケットに婚約指輪




「菫って、結婚間近の彼とはどうなってんの?」


久しぶりにランチに呼び出され、開口一番に江里子が言ったのはその言葉だ。
いつものコーヒーショップ。今日は久実がおらず、江里子と二人きりだ。


「えっ、あの」

「結婚、するんだよね。しないの?」

「あ、……あー、しない、かな」


あれが嘘だった……とは言えない。

詰め寄ってくる江里子にはどこか必死な様子がある。それは、舞波さんの浮気を疑っているから?

江里子は気づいているんだろうか。
そのきっかけとなった腕時計を私が前につけていたっていうこと。

とにかく、なるべく刺激しないようにしないと。
余計な波風は立てたくない。


「なによう、別れたの? 菫、今フリー?」

「えっと、あの」

「だったら資材部の子紹介してあげるよ? 結構格好いい子いるんだから」

「ちょ、待って。それはいい。いるの、一応。……彼氏は」


これはもう嘘じゃないよね?
一応、司さんとお付き合いするって事にはなったんだし。


「あ、そう。ならいいの。……ねぇ、菫」


ふう、と物憂げなため息を零して江里子が私を見る。
女の私でもドキッとしてしまうほど色っぽい顔をしていた。


「最近徹生と仕事してるんでしょ? 彼、なんか変わったこととか無い?」

「え? 無いと思うけど」

「そう。ならいい」


私に『浮気されてるかもしれない』と言わないのは彼女のプライドなんだろうか。


話を突っ込みすぎるとボロが出てきそうで、私も黙りがちになっていたからか、江里子との昼食はぎこちないまま終わっていった。



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