ポケットに婚約指輪
江里子と一緒に会社に戻る直前で、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、司さんが居た。
今日はグレーのスーツだ。ワイシャツの襟はラインのあるタイプでなんだかお洒落な感じ。
「やあ、お昼?」
「里中さん、こんにちは」
挨拶を交わす私たちを、江里子は不思議そうに見つめた。
「里中さんと知り合い? 部署違うのに。顔広いんだ」
「江里子だって知り合いでしょ?」
「だって私は親の絡みで色々あるから。それに里中さんは徹生の同期だし。ね、里中さん」
「そうだね。舞波は最近どうなの? 俺あんまり会わないけど」
「菫と一緒の仕事しているそうですよー」
やだ、余計なこと教えないでよ。
にこやかに言う江里子に内心で突っ込む。
「……へぇ、そうなんだ」
「そ、そうなんです」
心なしか、里中さんの視線が痛い。
でも別に教えなきゃいけないことじゃないかなって思うんだけど。
「あー昼から仕事やりたくないなぁ」
「江里子ったら」
「なんか最近調子でなくて」
エレベータに乗り込んだのは私たちを含め5人で、私と江里子は小さな声で話を続けていた。