ポケットに婚約指輪

策略



『刈谷さんにばれなかった?』


その夜の電話での、司さんの第一声だ。


「今日は忙しくて話をしていないので」


正確には私が逃げまくっていたのだ。

刈谷先輩はずっと私を睨んでいて。その視線が突き刺すようで怖くて、資料室や会議室に資料を持ち込んでなるべく顔を合わせないようにしていた。


「……でもばれたかもしれません」


少なくとも疑われていることは確かだ。
尻すぼみになっていく私とは対称的に、司さんの声は快活そうだ。


『だったら堂々としてようよ。別に良いじゃん。会社で話題になっても』

「……でも」


会社に知れ渡ったらいろいろな意味で大変になる。

刈谷先輩もだけど。
舞波さんと江里子の結婚式でついてしまった嘘が、今になって重くのしかかってくる。

つじつまが合わない私の言動に、皆不信がるだろう。
せっかく仕事も軌道に乗り始めたのに、信用を失ったら終わりになってしまう。

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