ポケットに婚約指輪

「もう夜中ですよ。明日も仕事だし」

私は敢えて興ざめするような一言を口にする。

このまま甘えて流されて、全てが明らかになったときに嫌われるのが怖い。

どんな優しい思い出も甘い記憶も、一瞬で裏返せるカードを刈谷先輩は持ってる。そして、それを実行させるだけの原動力を、私は彼女に与えてしまった。


私の言葉を、彼はどのように受け止めたのだろう。
しばらくして、小さな返事が返ってきた。


「だよな。それに、……会ったら止まんなくなりそうだしな」

止まらなく……って、何がだろう。
私が期待しているような意味なんだろうか。


「……司さん」

「ん?」

「私のこと、嫌いにならないで」

「……嫌いになるようなことしたの?」

「いえっ、その、そういうわけじゃ……」


ない……とも言い切れない。
口ごもる私に、彼が笑う。


『前に言ってた不安ってやつか。大丈夫だよ。言ったろ、魔法はかけ続ければ解けない』

「でも」

『かけてごらんよ』


魔法って、……だって何?


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