ポケットに婚約指輪

「お疲れさんでしたー!」


私が所属している人事総務部の新年会だった。

ちょうど新年会シーズンでタクシーもあまり捕まらず、家が同じ方向であるという理由で舞波(まいなみ)さんと一緒のタクシーに積み込まれた。


「塚本さんって可愛いよね」


お酒を含んだ空気が耳元に広がる。
タクシーの後部座席には充分余裕があるのに、私と彼の膝はピタリと触れ合っていた。


「やだ。お世辞言っても何にもでませんよ」


ただ彼は酔っ払っているだけだ。
調子に乗ったら私が辛いだけ。

それでも彼に褒められることは涙がでるほど嬉しくて、酔って多少タガが外れていたこともあり、私は彼に身を寄せた。

すると彼は、ゆっくりと手を伸ばし私の腰を抱いた。


「ホントだよ。江里子よりずっと……」


触れられた部分が熱くなり、それはやがて恍惚感へと変わっていった。

先についたのは彼のアパートで。
彼は料金を精算すると、私の手を引っ張って一緒に降ろした。

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