ポケットに婚約指輪
翌日、けだるさの抜けない体を何とか追い立てて出社する。今度の内定者講習会のための資料作りと打ち合わせの為に、朝から舞波さんと会議室にカンヅメの予定だ。
「おはよう、菫」
「お、おはようございます」
デスクに着いて一番い声をかけてくれたのは刈谷先輩。
友好的とは言えない空気は漂ってはいるけれど、表情は笑顔だ。
それでも刈谷先輩と対面するのは心地悪い。逃げるように給湯室に行ったけれど、刈谷先輩は後を追ってきた。
「今日のその服綺麗な色ね」
クリーム色のブラウスだ。スーツの中から少しだけ見えたとき、顔が明るくなるねって前に司さんが言ってくれて、それ以来よく着るようになった色。
「ありがとうございます」
「……急にお洒落になってさぁ。もてるようになった? だから調子に乗ってる?」
長調の音階が突然短調に切り替わったように、刈谷先輩の声音が変わる。
突っかかってくるような口調と、挑むような目つき。なのに表情の方は生き生きとしてくる。
私への敵対心が、彼女を体内から活性化させてるみたいで怖い。
どうすれば刺激せずにやり過ごせる?
自然に足は少しずつ後ずさりをして、俯いたまま否定だけしておく。