ポケットに婚約指輪


「調子になんて……乗ってないです」

「まあ楽しいよね。皆にちやほやされたら。部長だって最近菫に仕事回すし。どんな手使ったの? まさか部長を落とした?」

「刈谷先輩!」


そこまで言われたら冗談にならない。
強い口調で名前を呼んだだけだけど。それまで私に強気に出られたことの無い刈谷先輩は驚いたようだ。一瞬息をのんで私をまじまじと見る。


「……冗談よ。でも結構したたかよね。大人しい顔して、裏で何やってるのか分かんない」


 刈谷先輩の視線が、ちらりと舞波さんのほうを向く。ここで興奮しちゃいけない。声を荒げたら社内の人に何かがあると悟られてしまう。



「それは、本当に違うんです」

「ふうん。別れたの? それで彼に手をつけたの? 私の気持ち知ってたくせに」

「止めてください。そんなんじゃ……」


そんなんじゃ……ない?
でも結果は一緒?

舞波さんに恋をして、その恋人が江里子だと知ってて付き合った。
刈谷先輩の恋心を知ってて、それでも司さんを好きになって付き合い始めた。

その二つに、どれほどの違いがある?
私は変わったつもりで居たけれど、実際はそんなに変わってない?


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