ポケットに婚約指輪
思わず息を飲んだ。
固まる私に、舞波さんが近づいてくる。
「どうしたんだよ」
小刻みに震える私を宥めるように、肩に触れる。
「これ……江里子から」
「え?」
舞波さんの動きも止まった。
私たち二人、表示された文字に縛り付けられたように固まってしまう。
「ほらね、見たでしょ?」
ノックも無く会議室の扉が開かれる。
最初に目に飛び込んできたのは、江里子だ。そして後ろに、何故か司さん。ドアを手で押さえているのは刈谷先輩だ。
「……酷い、菫」
苦々しい顔で江里子が呟く、廊下の方からはざわざわと音がしはじめる。タイミングがいいのか悪いのか、お昼休みになったのだ。
「とにかく入ろう。人目につく」
追い立てるように刈谷先輩と江里子を中に入れてくれたのは司さん。
だけど彼の顔もこわばっていて、明らかに不信なまなざしで私を見ている。
刈谷先輩だけが、口元に緩い微笑を浮かべてみている。
扉が閉まる音が、牢屋の格子が閉まる音のように聞こえた。