ポケットに婚約指輪

江里子の絶叫に、皆が押し黙る。

舞波さんは一歩下がって泣き出しそうな江里子を見つめ続け、刈谷先輩はドアの近くでただ静かに私たちを眺めている。

司さんの顔は……見れない。どんな顔で見られているか、考えるだけで怖くて。


魔法が解けてしまう。
幸せだった全てが泡になって消えてしまう。

かけ続けろと司さんは言ったけれど、どうやったらかけ続けられるの。


視界が潤んでくる。

だけどここで泣いてどうする？

全ては自分が逃げてきたツケだ。もう逃げちゃいけない。
自分でちゃんと伝えないと。


「江里子、違うの。……信じて。話を聞いて」


私は江里子をまっすぐに見つめた。江里子は少しだけたじろいだように視線をそらす。

そのまま私は視線を司さんの方へ移した。

彼は眉根を寄せて私を見ている。その表情が語るのは疑惑だろうか。
彼にそんな風に見られるのが一番辛い。

だけど、これが私への代償だ。
彼に、大事なことを隠し続けてきた私の。

それでも司さんにだけは嘘はついていない。
隠してきたことはたくさんあるけど、語ってきた気持ちは全て本物だ。

だから。




「……信じて」



彼を見つめたまま、それを言葉にした。
まっすぐ注がれる眼差しから、少しだけ厳しさが消える。