ポケットに婚約指輪
私は意を決して江里子に語り始めた。
「江里子、ごめんなさい」
「菫っ」
舞波さんが、私を止めようとする。
その行動がますます江里子を刺激したのか、彼女は声を上げて泣き始めた。
「誤解なの。確かに私、昔舞波さんのことが好きだった。だけど江里子と結婚してからは本当に何も無いの。信じて。舞波さんは浮気なんてしてない」
背後で、安堵したような舞波さんのため息が聞こえる。
彼の浮気をばらすつもりは無いことを、どうやら理解してくれたらしい。
「嘘よ、だって……」
「そうよ。私前に見たのよ? 菫が舞波くんと資料室で密会してたの」
「あれは」
刈谷先輩が、ここぞとばかりに口を挟む。
「たまたま一緒になっただけです。あの時は……」
「抱き合ってたじゃない」
畳み掛けられる言葉に、返事が思いつかない。言いよどんでいると、後ろに立っていた舞波さんが一歩前に出てきた。
「……資料落としそうになったときの事言ってる? 塚本さんを支えようとして密着した時はあったけど。刈谷さん覗き見してたの? 趣味悪いね」
「なっ」
舞波さんが妙に生き生きと反論し始めた。どうやら彼の中で誤魔化せるという算段がたったのだろう。
刈谷先輩も顔を赤くして押し黙った。