ポケットに婚約指輪
「……本当? だってあの腕時計は?」
「あれは落ちてたのを拾っただけだって」
「じゃあ何であの時はっきりそう言わなかったのよ!」
「記憶が曖昧だったんだよ。俺だって仕事に追われてて忙しいんだ。突然カバンから腕時計出されて糾弾されたらしどろもどろになるだろ!」
自信ありげに嘘を言い切っちゃう辺り、舞波さんって凄い。
江里子はその勢いに飲まれたように静かになる。
「……ホント? 本当に浮気してないの? 徹生」
「江里子、ここは会社だぞ。そういう話は家でしよう」
「でも、問い詰めるには今しかないって思って」
「塚本さんとはなんでもないよ。……なぁ?」
「はい」
「でも名前で呼んでたじゃない!」
そこを突っ込まれると痛い。
一瞬黙った舞波さんと私に、助け舟を出してくれたのは、それまでずっと黙っていた司さんだ。
「……仲良ければ別に名前で呼ぶんじゃない? 友達でも」
「里中くん?」
「それにね、塚本さんと舞波は付き合ってなんか無いよ。だって、彼女と付き合ってるのは俺だしね」
「ええっ?」
江里子が目を見開いて彼を見る。彼はつかつかと私に近寄ると腕をぐいと引っ張って自分の傍に寄せた。