ポケットに婚約指輪
「指輪をあげたのも俺。でもあれは無くしたから、今は新しいのをあげた。会社にはつけてきてないだろうけど、なぁ菫」
司さんが目配せする。
助けてくれてるんだ。そう思ったら、安心してするりと言葉が出てきた。
「……つけてきてないけど持ってます、私」
「え?」
カバンの中からあの指輪を取り出す。
私に向けられたものではないけれど、キラキラした本物の愛情の形。
「ほら」
ケースから見せられた輝きに、皆一瞬息を飲む。
誰が見ても、迷うこと無い婚約指輪がそこにきらめいていた。
ああこれが、本当に私へ贈られたものなら良かったのに。
「……じゃ、本当だったんだ。結婚間近の彼って」
「いえ、あの」
「結婚はね、まだ本決まりじゃないんだ。挨拶とか終わってないからね」
さらりと嘘をつきつつ、現実に沿わせるように話を持って言ってくれる司さん。
「これは俺の気持ちとしてあげたものだ。本気なんだけどね。彼女は遠慮してばかりで」
「さ、里中さん」
「そうだろ? 刈谷さんに遠慮してた、いつも。……刈谷さん悪いね。でも菫が言わなかったのは君を心配してのことだから責めないでやって欲しい」
「……っ、そんなの。気遣いでもなんでもないわ。却って失礼よ」
「俺もそう思うけど。でも菫は菫なりに遠慮してたんだ。そこは分かってやってよ」