ポケットに婚約指輪

刈谷先輩の目に涙が浮かんだ。

あの気の強い刈谷先輩でも、司さんの一言でならここまで弱くなるんだ。
彼女の恋心が垣間見えて、胸をぐちゃぐちゃにされたような気持ちになる。


「刈谷先輩、ごめんなさい」

「止めてよ。謝られるなんて惨めだわ」

「だって、私、刈谷先輩の気持ち知ってたのに」

「だから止めてってば!」


強い口調で言い放つ刈谷先輩に、深い謝罪の礼をする。


「だけど、好きになってしまいました。里中さんのこと」


最敬礼の姿勢から、顔が上げられないまま私は続ける。


「刈谷先輩を傷つけても失いたくないくらい彼が好きです」

「止めてって、……言ってるでしょ」


刈谷先輩の声は涙声で、私から見える足元は軽く震えていた。

こんな風に泣けるくらい、あんなにも意地悪になれるくらい、刈谷先輩は司さんのことが好きだったんだ。

でももう、私も負けないくらいに彼が好き。



……認めたらなんだかすっきりした。


私はどうしてあんなに刈谷先輩を怖がっていたんだろう。

一緒じゃないの。
誰かを好きでその人を手に入れたくてじたばたしてる。

私も刈谷先輩も変わらないじゃない。

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