ポケットに婚約指輪


「とにかくそういうわけだから、舞波もいくら仲良くても名前を呼び捨てにはするなよ」

「里中」

「俺、案外やきもち焼きなんだよね」

「お前が?」


くすりと笑った舞波さんは、司さんの顔を見てぎょっとした顔をする。


「わ、分かった」

「って訳だから、心配すること無いよ。舞波さん?」


涙目のままの江里子に向かって司さんが笑いかける。すると、江里子は困ったように笑った。


「信じていい? 菫」


私が頷くと、江里子はいつもの居丈高な調子を取り戻した。


「徹生、一緒にお昼食べましょ」

「あ、ああ」

「会社でもちゃんと見せ付けておかないと危ないもの」


若干、惚気の混じったことを呟きながら、江里子と舞波さんが出て行く。
残された私と司さんと刈谷先輩は気まずげに顔を合わせる。


「飯、どうする?」

「二人で行けばいいじゃない。お付き合いしてるんでしょ」


吐き捨てるように言って、刈谷先輩は会議室を飛び出した。


「待ってください刈谷先輩!」


慌てて追おうとする私を、司さんの腕が掴む。

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