ポケットに婚約指輪
「司さん?」
「……持ってるとは思わなかった」
指輪のことだろうか。彼の視線は私の手元にあるケースをじっと見ている。
なんだか恥ずかしくなって、慌てて指輪を鞄に戻す。
「捨てていいよって言ったのに」
「だって。……捨てられないです」
「どうして?」
彼の手は私の腕を離さない。
見つめる眼差しもどこか熱っぽくて、ただ顔を見られているだけなのに火照ってくる。
捨てられなかったのは、これにこめられた彼の愛情が本物だと思ったから。
そしてなにより。
「司さんが、初めて私にくれたものだから」
「……っ」
勢いよく引っ張られて、視界が暗くなった。
抱きしめられてると理解したのは、そうなってから数秒後。
身動きできないほど強い力で、視界には彼のシャツしか移らない。少し苦いタバコの香りがする。司さんがタバコを吸ってるところなんて見たことが無いけれど、同僚の人から移るのかしら。
「つ、つ、司さんっ?」
「……ホント、時々凄い殺し文句を言うよね」
「か、会社ですよ」
「今は昼休みだよ」
さらりと言い返されてどうすればいいの!
会議室なんていつ誰が入ってきてもおかしくないのに。