ポケットに婚約指輪
すると不意に腕の力を緩められる。
ドキドキしたまま彼を見つめると、彼の表情はもういつもの通りに落ち着いていた。
「俺、昼から外出するけど、戻ってくるから一緒に帰ろう」
「え? あ、はい」
「事の顛末をはっきり聞かせてもらうから」
「し、信じてくれたんじゃないんですか」
「信じるよ。菫が信じてっていったからね。……でも、だからと言ってお仕置きをしないわけじゃない」
軽くおでこをつつかれる。
実は怒ってるの?
お仕置きって。
私一体何をされるの?
「覚悟しといて。……刈谷さんを追いたかったんでしょ? 行っていいよ」
正直、司さんの傍に居たい気持ちも膨らんでいたけれど、やっぱり刈谷先輩を追いかけた。
今を逃したら、ちゃんと伝えられないかもしれないもの。
部署内を覗いてもいなかったので、外に出たのだろうかと考える。
エレベーターホールをふらつきながら、ふと思い立って非常階段を覗いてみた。
すると、座り込んで泣いている刈谷先輩がそこにいた。
「……来ないでよ」
小さな声。
あんなに彼女が怖かったのに、今は嘘みたいに小さく見える。