ポケットに婚約指輪
「ごめんなさい」
「謝られるのはすっごくむかつくわ」
「でも、結果的に私ずっと刈谷先輩を騙してしまって」
「そうよ。騙されたわ。……あんたなんて後から現れた癖に。なんで里中くんにそんなに気に入られたのよ。ずるいわ」
「そうですね」
「舞波くんとだってさ、ホントに違うの? キスしてるように見えたのに」
「……そうですね」
私の言葉に、刈谷先輩が顔を上げる。
呆けたような顔をしていると、刈谷先輩って意外と可愛い。
「……誰にも内緒ですけど、付き合ってた期間はあります。江里子と舞波さんが結婚する前の話です。でも振られたし、もう諦めました。忘れさせてくれたのが司さんです」
「私にそんなこと教えていいの?」
「ずっと知られるの怖かったです。それでビクビクして自分が嫌いでした。……今私、少しだけ変われた気がするんです。……それも、司さんのお陰なんです」
「……むかつくわ」
ぷいと顔をそらして、刈谷先輩は鼻をすする。
「誰かに言いますか?」
私が差し出したティッシュを泣きそうな顔で見て、さっと掴んで鼻に押し当てる。
「……しないわ。今更そんなこと聞かされてもどうにもならないじゃない。どうせもう誰も信じないわ」
「ありがとうございます」
「……やっぱりアンタはしたたかな女よ」
いつもと同じきつい口調。それが今日は優しく響いた。
私が変われば、人も変わるのかな。
それとも、変わったことでとらえ方が変化しただけなのかな。
分からないけど、今の自分はなんだかとても好きな気がする。