ポケットに婚約指輪

確かに、人に依存してばかりで逃げ回っていた私を、何故彼が選んでくれたのか疑問ではあった。
いつも人の中に埋もれて、静かなだけがとりえだった私を。

司さんの好みがそういうタイプなのだとしたら、今の私ではもう違うの?
変えてくれたのは、他でもないあなたなのに。

頭にこびりついた考えが消えなくて、司さんの話が頭に入ってこない。
パスタを半分ほど食べた辺りで、彼がワインのグラスを合わせてきた。


「え?」

「ほら、聞いてない。ちゃんと俺の方見ろよ」

「すいません」

「この後、どうしようか。どこかでゆっくり今日の話がしたいんだけど」

「え? ここで話すんじゃないんですか?」

「ここで聞いてもいいけど。俺、何するかわかんないよ?」


にやりと笑われる。

それは……怒られるってこと?
確かに人前で怒鳴られたりするのは嫌だけど。


「じゃあ、歩きながら」

「おっけ。じゃあ食べたら出ようか」


結局店の中では無難に仕事の話や世間話をしていた。
お会計をするとき、美亜さんは罰の悪そうな顔で私を見たけど、お互い何も言うことはなかった。


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